撮り、選び、見せる写真

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はじめに

写真をやっている杉村です(アーティストページ)。今回は、作品制作のバックグラウンドをお伝えして、写真を見ることに少しでも「楽しさ」を足せたらと思っています。

私が取り組んでいる写真というものは、カメラがあればどんな風景、人物、ものでも画にすることができます。スマホだとより簡単に撮って加工したり、Instagramで世界中に発信できたりする、とても楽しい媒体です。

自分の思いを乗せて誰かに伝えようとしたときに、自分の中でどういう流れがあって、作品として世の中に出るのかを紹介してみます。


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私の作品は、いわゆるよくあるプリント(紙に写真を焼き付ける、出力する)の他に、立体の作品にも展開しています。アクリルのブロックに、透明フィルムに出力した写真を貼り付け、貼り合わせて一つのオブジェを作ります。


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最終的なかたちは異なりますが、作品を作る過程は同じです。その過程を、写真を撮る・選ぶ・見せるの3つに分けてみます。


撮る・選ぶ・見せる過程

A. 撮る

当たり前ですが、まずは画を撮ること。目の前にあるものを、自分の目で見て、カメラのファインダーの枠に納めて、その瞬間を手に入れます。このときの私は「何も考えずにものをきちんと見ること」だけを心に置いています。心に置いていることすら忘れているような状態が理想かもしれません。その瞬間に、何が一番美しいのかを思って画を集めていきます。

画に入れる要素である色、かたち、光の当たり方、動きなどをその一瞬のために判断します。光を見る訓練や、シャッターを思った通りに切る技術などは、とにかくカメラに触って枚数を撮ることが一番近道かなと思います。


B. 選ぶ

撮った画は、当日見返すこともあるし、数日経ってから見ることもあります。何百枚あるものをさーっと見て、「いい」と思ったものをチェックします。色やかたちやいろんな要素がある中で、自分が面白いと思うかどうかしか基準がありません。

ただし、ここでいう面白いかどうかは、撮ったときに面白かったか、ではなくて、今この画を見て「面白いか?」です。

最後に写真を見るのは私ではなく、展示会場やサイトで作品を見てくれる方です。そのため、写真を選ぶときに頼りになるものは私の好みや達成感ではありません。ただただ四角くできあがっている画が、今面白く見えるかを判断します。(面白さについては様々見解があるので、いろいろな写真家さんに聞いてみてください。)


C. 見せる

何をテーマにして見せるのかを考えます。伝えたいことがあり、見せる場所があり、形態や数は何が最適かなど細かいところまで落としていきます。(必ずしも、伝えたいことが一番にあるわけではありません。展示会場が先に決まっていることも。)これは、ARTiATEへ出している作品についても同じです。


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誰かのプライベート空間に飾られることを想像して、どんな内容がいいかな、どのくらいの大きさがいいかな、などを考えます。頭の中で並べたり、大きさを変えたり、図面を想像したりします。


これでいい、と思うまで繰り返し


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ここまでのABCの過程で、順当に考えればA→B→Cと進めていくことで作品ができあがりそうですが、1ターンでそのままできあがることは今までにほとんどなかったように思います。

ABCは、順番ではなく、それぞれが制作のためのパーツです。どこが欠けてもできません。最終的に想像していたもの、もしくはそれ以上のものができあがるまで、ABCをひたすら繰り返しますが、それぞれへのウエイトの置き方や回数はそのときの自分次第です。


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昨年、「距離と感覚」展で出した作品は、一旦選んだものを小さくプリントして部屋に並べておいて、撮ってきては入れ替え、眺めて、をしばらくやっていました。 (A→B→C→A→B→A→B…)

画に納得がいくまで素材や大きさのイメージがつかず、何点並べたらいいのだろう?とぎりぎりまで悩んでいました。また、伝えたい大体の方向性はあったのですが、そこに自分の思いを乗せることが難しくて、写真を並び替えたりメモを書いたりしながら少しずつかためていきました。


作品と思いが誰かに伝わること

こうして見せる段階になったものが、世の中に出てやっと自分の思いが誰かに伝わります。 作品を見た方からの感想をもらったり、あるいは作品が誰かの手に渡ったりして、自分の内と外のつながりができます。

ただ、一旦表に出てしまったものはもう私の手を離れて一人歩きしていて、私がそのかたちや意味を変えることはできません。作品自体が手元に残ったとしても、それは独立したひとつの思いです。作品に、大きな使命や誰かを助けるような実利はないですが、それぞれが私のフィルターを通して世界を見て感じたことを伝える役割を担ってくれています。

ぜひこれから、写真に限らずいろんな作品を見るときには、作家がこんなことを考えてたのかな、どういう過程でできあがったのかな、など想像しながら楽しんでください。


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杉村 知美

1988年生まれ。日々のスナップの作品、また立体の写真作品も制作。 不思議と目にとまる瞬間や、頭に浮かぶイメージを撮っています。 生きているなかでの必然や儚さを感じることはとても大切なことだと思います。 日常の中でそれら沢山の瞬間を捉えていきたいと思います。