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修復家という職業を知っていますか? 絵が好きな人であれば、海外の名画の修復プロジェクトの話など、修復にまつわる話を耳にすることがあると思います。しかし、修復とは何なのか、修復家とはどういった職業なのか、実際の所を知る機会はほとんどありませんよね。今回は、日本とイタリアで西洋絵画の修復を学んだ筆者が、修復業界について簡単にご紹介します。
まず、美術品の修復とは何でしょうか? 修復とは、できるだけオリジナルの状態になるよう修復処置をし、作品をより良い状態で後世に残していくことです。日本語では「修復」「保存修復」「コンサベーション」といった言葉で呼ばれています。
修復処置とは、例えば、洗浄(汚れなどの除去)をしたり、欠損(欠けている所)を補ったり、劣化した部分を補強することなどです。美的な観点、歴史的・時間の経過といった観点、何がオリジナルか、そういった観点から考えながら、修復処置をします。

では、美術品というと何があるでしょうか?
このように色々なジャンルがあります。例えば一口に彫刻といっても、ブロンズや大理石では劣化の様子も修復方法も違い、状況は様々です。以上のジャンルの作品は、美術館やギャラリー、個人蔵などで見られるものです。
また、以下のような他の学問にジャンル分けされるものも、美術品の修復と隣り合っています。
さらに、近現代以降の美術品は、あらゆる画材や技法で制作されているため、それらに対応していくのも今度の修復分野の大きな課題です。
現在の修復業界では、以下のような、処置を行う上でのいくつかの指標があります。
例えば、この3つ目の指標はどのようなことでしょうか? 油絵の修復に「補彩」(欠けている色を補う作業)を行う場合、昔は油絵具が使われていましたが、現在では水彩絵具が使われています。なぜ材料を変えたのでしょう? それは、異なる画材を使うという工夫をすることで、どこが修復された場所でどこがオリジナルかを後の時代の修復家が判別できるようにしたかったからです。判別できることで、後の時代の修復家が、オリジナルを傷つけずに、水彩絵具で行われた修復箇所のみを洗浄することができるようになったのです。
作品は物質なので、どんなに質の良い修復をしても必ず劣化します。未来永劫に有効な修復作業は存在せず、数十年すればまた修復されます。今だけのことでなく、数百年といった単位でその作品が残されていくことを考えながら処置をする、それが修復という仕事です。

では、修復処置とはどのようなものなのでしょうか?
まず、処置を始める前に、作品の状態を見ます。肉眼だけでなく、赤外線や紫外線などで科学的な調査をすることもあり、その機材を使う技術やデータを解読する知識が求められます。実は機材がない工房も沢山あり、またプロジェクトの予定や予算によって、どういうデータを集めるかが決まります。国立美術館が所蔵している名画などであれば、修復後にメディアに出したり、詳しい報告書を作成したりと、科学的調査をすることが多いです。
状態を把握し、所蔵者の意向を聞き、場合によっては学芸員や美術史家など他の職種の専門家と協力しながら、修復方針や処置の手順を決め、修復作業を始めます。
主な作業は、例えば油絵の場合、
といった所で、報告書を書いて納品する所までが仕事です。作品の状態は多種多様で、同じ作品は一つとないため、経験を積んであらゆる劣化に対処する技術が必要です。
では、保存修復をする上で必要な知識や技術とは何でしょうか? それは、
など、多岐に渡る知識が必要です。
とはいえ、例えば修復の教育機関に入らず工房に直接入ってキャリアを積んだ場合、実践の経験は多い一方、科学知識を得る機会があまりありません。そうした時に「こういうタイプの汚れにはこの溶剤を水と何パーセントで溶かしたものを使えば落ちる」といった単発の知識を工房の師匠から学び、その方法をずっと続けていく修復家もいます。それも一つの手で、間違いではないのですが、範囲の狭い単発の知識だけでは、応用を利かせることができません。
この作品のこの部分はどうして壊れたのか、どういう処置をするのがベターなのか、どういう保存方法をすれば同じような劣化を防げるのか。そういった、より良い仕事を追求するにはどうしたらいいのでしょうか? それには、一つのやり方の繰り返しで仕事を終わらすのではなく、他の修復家や学者による新しい修復処置の研究からも学びながら、広く知識と経験を積んでいくことが必要である……これが、近代の修復業界で一般に言われている理論です。
実は、絵が描けない修復家は少なくありません。絵を描く技術は必須ではありませんが、修復処置の中で大事な処置の一つである「補彩」においては、描ける人の方がうまい傾向があります。
補彩がうまくない修復家は、どうするか。もちろん、全ての処置を一人で上手にできるのがベストでしょう。しかし、処置は補彩だけではありません。科学に強いため保存科学の分野に特化する人や、洗浄など一つの処置を専門にする人などもいます。こうして、自分に合ったものに集中し、得意分野として伸ばしていくことも悪くはありません。なぜなら、多くの場合修復はチームで行い、納品期限もあるので、一つの処置を早く正確にできる人に任せることも多いからです。
では、修復家になるにはどうしたらいいのでしょうか? 修復家達は、それぞれ異なるキャリアを持っており、こうしたら修復家になれるといった指針はありません。とはいえ、「今日から開業しよう」と言えるようなものでもなく、まずはどこかで学んで経験を積まなければなりません。学ぶには、以下のような2つの場所があります。
業界の現状として、未経験者はまず教育機関に進むという道がメジャーではあります。しかし、一つもしくは複数の教育機関に行ったからといって修復家になれる訳ではありません。
など、10年単位で学ぶ人はザラにいます。一方、未経験でも運を掴んで工房に弟子入りし、そのまま業界に残った人もいます。
「少し修復の世界をのぞいてみたい」という人であれば、教育機関や工房の短期講座に通うのもいいでしょう。しかし、生涯の職業にしたい人には短期講座だけでは難しいです。プロになってからも、国立博物館等の短期講座や学会に通い、より良い技術を探求する人が多い世界です。短期間で身になるものだとは思わない方が良いです。
【メリット】
※ 座学のみの授業を行う教育機関もあるため、入学前にカリキュラムをよく見る必要があります。インターン先や仕事場では、実作業がすでにできないと仕事になりません。せっかく教育機関に行くならば、実習が沢山ある所が良いと業界内では、よく言われます。
【デメリット】
【メリット】
【デメリット】
教育機関の卒業生の数に対し、求人数はかなり少ないです。
などの理由が重なり、経験の少ない若い人には戦うのが難しい業界です。

今回は、修復とは何なのか、修復家とはどういった仕事なのかについて、ご紹介しました。修復のニュースはたまにメディアに出ますが、実態はあまり知られていない分野です。
しかし、実家に絵があるもののどう保存したらいいのか分からない方や、絵を買いたい方もいます。また、旅行に行けばどこかで必ず美術品を見ているはずで、美術館や教会にある古典作品は全て修復されています。皆さんの家の最寄り駅にあるブロンズ彫刻なども、修復されている可能性があるわけです。修復の世界は意外と身近にあり、なくなることのない大切な仕事です。
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根本佳歩 Kaho Nemoto イタリア在住のライター。日本の美大とイタリアの専門学校で絵画修復を学ぶ。イタリアにて、修復家、日本古美術商アシスタント、日本語教師、印刷会社アシスタントなど様々な仕事を経験。主にイタリア観光や現地情報、美術について執筆している。 |