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シルクスクリーンの版画を、はじめて部屋に置いたとき、ちょっと驚いた。
スマホの画面で見ていたときは、ふつうの「鮮やかな絵」だと思っていた。
でも、実物は、色の感じ方がまるで違う。
ぴたっと、紙の上に色が「乗って」いる。
画面では見えなかった、インクの厚みが、そこにある。
「色って、こんなに物質感があるんだ」
そう思った。

シルクスクリーンは、ポスターや T シャツのプリントでよく使われる技法だ。
だから「印刷もの」というイメージが、頭のどこかにある。
実際、商業印刷でもシルクスクリーンは使われる。
ロゴ入りのトートバッグ、ライブの T シャツ、ステッカー——日常で目にするシルクスクリーンは、たぶん「量産されたもの」のほうが多い。
でも、作家が一枚一枚刷る「シルクスクリーン版画」は、まったく別物だ。
ひとつの作品のために、版が何枚も用意される。
色ごとに、ひとつずつ版を作る。
赤の版、青の版、黒の版——たとえば6色を使うなら、6枚の版を、順番に紙に押し付けていく。
そしてそれぞれの色は、紙に「印刷」されるんじゃなくて、「置かれる」。

シルクスクリーンの版は、絹(または合成繊維)の網だ。
網の一部だけ、インクを通すように加工する。
スキージというヘラで、版の上のインクを押し付けると、加工された部分だけ、紙にインクが落ちる。
インクは、絵筆で「塗る」のではない。版の網目を通って、紙の上に「ぴたっ」と置かれる。
だから、シルクスクリーンの色は、絵の具の薄いシミではなく、独立した色の層になる。
紙の上に、色が「物」として存在している。
画面で見ても、その違いは伝わりにくい。
でも、実物を触ると、紙に厚みがあるのがわかる。
色を重ねれば重ねるほど、その厚みは増していく。
「シルクスクリーンは、色そのものを紙の上に積み上げていく仕事だ」
そう言ってもいいと思う。

なぜシルクスクリーンの色は、こんなに鮮やかに見えるのか。
それは、インクが「そのまま乗っている」からだと思う。
水彩のように紙に染み込まないし、油絵のように溶け合わない。
赤は赤として、青は青として、紙の表面にきっぱりと存在している。
20世紀のポップアートの代表的な作家——アンディ・ウォーホル、ロイ・リキテンスタイン——が、シルクスクリーンを選んだ理由のひとつも、たぶんここにある。
時代の空気を「ばちっ」と切り取るのに、シルクスクリーンの色の物質感は、よく合っていた。
そして、何十年経っても、シルクスクリーンの色は色あせない。
紙の上に「物」として置かれているから、簡単には変わらない。
飾って5年経っても、10年経っても、最初に出会った日と同じ色を、見ることができる。

ARTiATE の作家のひとり、mocchi mocchi さんは、シルクスクリーンで作品をつくっている。
色の使い方が、独特だ。
強い色、淡い色、対比する色、響き合う色——それらが、版を重ねるごとに、画面の中で関係を持ち始める。
一枚の作品には、何度ものスキージの動きがある。
色を重ねる順番、版を合わせる精度、刷り上がりを見るたびの判断。
そのすべてが、最終的な「色の眩しさ」をつくる。
mocchi mocchi さんの作品を見ると、「色って、こんなふうに自由なんだ」と思う。
細かい線描があるわけじゃないのに、目を引く。
それは、たぶん、色そのものが主役になっているからだ。
「描いた」というより、「色が置かれた」「色が現れた」と言いたくなる、不思議な作品たちだ。

シルクスクリーンの不思議なところは、部屋に置いた瞬間に、色がもう一度生まれることだ。
朝の光に当たると、色が明るく弾ける。
昼の光だと、色が落ち着いて見える。
夜の照明だと、色が深く沈む。
雨の日は、なんとなく静かになる。
絵の具を塗った絵は、光によって表情が変わる。
でも、シルクスクリーンは、それ以上に変わる。
色が「物」として独立しているから、光の状態を、ダイレクトに反映する。
シルクスクリーンを飾った人がよく言うのは、「毎日、色が違って見える」。
それは、たぶん本当だ。
同じ作品なのに、毎日違う表情を見せてくれる。それは、生きている景色を一枚、部屋に置いているような感覚に近い。

シルクスクリーンは、色が強い。
だから「派手すぎないかな」と心配する人もいる。
でも、実際に部屋に飾ってみると、案外馴染む。
むしろ、白い壁の部屋にこそ、シルクスクリーンの色は、ぴったり合う。
ベージュやグレーで揃えた部屋に、ひとつだけ鮮やかな色がある。
それは、部屋を派手にするんじゃなくて、部屋にちょっとした「アクセント」を入れることだ。
ファッションで、ベーシックな服に赤い口紅を一本足すような感覚。
シルクスクリーン1枚で、部屋の温度が、ちょっと変わる。
「自分の家は地味な家具ばかりだから」と思っている人ほど、シルクスクリーンとの相性は、たぶん、いい。

シルクスクリーンの色を、言葉で説明するのは、ここまでだ。
あとは、見るしかない。
mocchi mocchi さんの作品を、画面で見ても、その「眩しさ」はたぶん半分も伝わらない。
それでも、画面の中で「あ、なんか目が引かれる」と思う一枚があったら——
それを、部屋に置いてみてほしい。
色は、まったく違う表情で、あなたを迎えるはずだ。
「わからない。でも、目が引かれる」——
それで、十分だ。
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Writer 「わからない。でも好き。」——感性で選ぶアートとの出会いを届ける。 |