デザインとアートの違いとは?

はじめに

近年、デザインとアートという言葉は広く用いられ、多様な場面で耳にするようになりました。

UNESCOのデザイン部門で認定された都市を指す、「デザイン都市」。あるいは、地域を舞台とする「地域アート」も、その一例です。言葉はよく耳にするけれど、実際のところ違いがわからない……。という方に向けて、デザインとアートの違いをご紹介します。

一見、似た領域にあるアートとデザインですが、実は目的や起点に大きな違いがあります。


利益を目的にするデザイン

まずは、比較的、イメージをしやすいデザインについて、語源や定義を見ていきましょう。

デザインの語源は、ラテン語の「Designare」とされており、計画を記号に表すという意味です。

『広辞苑』では「製品の材質・機能および美的造形性などの諸要素と、技術・生産・消費面からの各種の要求を検討・調整する総合的造形計画」としています。

さらに、グッドデザイン賞を発信している公益財団法人日本デザイン振興会(JDP)公式ホームページでは、「常にヒトを中心に考え、目的を見出し、その目的を達成する計画を行い実現化する。この一連のプロセスが我々の考えるデザイン」と記述しています。

どれもが目的に向けた計画を示していることがわかりますね。つまり、デザインとは、人の目的に向けた方法や手順を示します。

広義の意味でのデザインを捉えることはできましたが、これではまだ漠然としていますね。デザインの意味を深掘りするには、デザインが発達してきた背景に注目する必要があります。


デザインと経済

デザインは、市場経済の発達と共に成長してきたとされています。とくに日本では、高度経済成長期以降、言葉の意味が定着しはじめました。前述したように、目的に向けた手法であるデザインは、生産消費や需要供給の歯車となっていたのです。

1980年代以降、生産をベースにした消費が成り立っていた日本は、消費をベースにした生産へと変化していきます。これにより、企業は消費者が商品を通じて感じる価値に着目するようになりました。

そこで、一つの鍵となったのがデザインでした。

洗練されたデザインは、消費者が手に取りたくなる付加価値を生み出します。それだけでなく、消費者が求める使い心地にデザインは深く関わってきます。デザインは消費者の課題に着目し、本質的な価値のあるアイデアを生みだしていったのです。

この背景から80年代以降は、デザインの特徴である①目的に向けた手法②既存の課題からアイデアを生み出す手順がより重視されていきました。


感動を与えるアート

次に、アートの定義を見ていきましょう。

アートの力を用いて豊かな市民社会の創出を目的としているアートNPOでは、アートを「多様な価値を創造し、社会を動かす力を持つ社会的な存在」としています。

また、アートの経営と芸術の融合を説いた『アート・プロデュース概論』(堺,2017)ではアートを「人を感動させるあらゆる価値を持つもの」と捉えています。

両者ともアートは受け手に価値を与えるものとしているのがわかりますね。デザインが消費者の課題解決を目的していたのに対し、アートはまだない価値を受け手に与えることを目的としているのです。

まだまだ、漠然としているアートですが、デザインと同様に歴史的背景を深掘りしていくとより明確になっていきます。


芸術的価値の転換

アートと切っても切れない関係性である美術館。

美術館の始まりは、戦後に生まれた「公共」という国策の延長線上にありました。しかし、当時の注目は、テレビや漫画、音楽といった芸能でした。そのため、国策の一部であったアートは、上層階級の人々が楽しむものとされ、社会から遠い存在になっていきます。

その状況を大きく変えたのは、1970年に開催された大阪万博と呼ばれる日本万国博覧会でした。

開催にあたり、日本万国博覧会協会(以下、万博協会)は展示プロデューサーとして岡本太郎氏を抜擢しました。岡本氏は企画立案から展示作成までを担当。1つのテーマ館に3つの展示の複合を提案します。岡本氏は、展示ごとに独立しながらも互いに作用し合う宇宙観の表現を目指しました。

この先進的なコンセプトは、これまでアートと遠くにいた人たちの興味を惹くものとなり、約6400万人を超える来場者に衝撃を与えました。

ここで注目して欲しいのは、アーティストである岡本氏の姿勢です。

この大阪万博で、岡本は自身の芸術を万博協会の要求に合わせて変えたのではありません。あくまでも、自分が表現したい芸術を追求しました。一方で、マネジメントの役割を担う万博協会は岡本が生み出す芸術価値を尊重しつつ、作品を来場者に届ける場を設定しています。

この一連の流れを見ると、アートは「芸術家(岡本太郎)」・「マネジメント(万博協会)」・「鑑賞者(来場者)」の3つが相互作用していると分かります。

大阪万博は、岡本の芸術価値を残したまま、万博協会が作品公開の場を設定し、来場者がそれぞれの価値に転換する流れを作り上げました。さらに、鑑賞者やマネジメントをアイデアの起点とせず、芸術家の発想を起点とすることで、デザインとは異なる消費の枠組みを超えた作品を創出したのです。


まとめ

以上がアートとデザインの違いです。デザインは消費者が抱える課題に着目し、商品価値を提供します。一方で、アートはアーティストの発想を軸に置き、鑑賞者に新たな価値を与えています。

これらを踏まえると、作品や展示がどんな位置にあるのか見えてくるようになりますね。


参考資料

  • 佐藤 直樹『無くならないアートとデザインの間』(晶文社 2017年)
  • 境 新一『アート・プロデュース概論』(中央経済社 2017年)
  • 松本茂章(編)高島知佐子・桧森隆一・太田幸治・志村聖子・朝倉由希・伊東正示・李知映・長津結一郎・武濤京子・佐藤良子『はじまりのアートマネジメント』(水曜社 2021年)
  • 株式会社日立製作所 『デザインとは?』
    https://www.jidp.or.jp/ja/about/firsttime/whatsdesign(参照2021-12-10)
  • 万博記念公園『岡本太郎について』
    https://taiyounotou-expo70.jp/about/okamoto-taro/(参照2021-12-10)


 
Writer
下地 優香

京都の芸術大学を卒業後、コンサルタント兼フリーライターとして活動を開始。自身の経歴を生かし、主に芸術やビジネス関連の記事を執筆。そのほかにも作詞、脚本作成など幅広く活動中。