アートを手にする楽しみとは

 美術館やギャラリーで、なぜか目を留めてしまう、気になる作品に出会った経験はありませんか。構図なのか、色なのか、全体の雰囲気なのか、どこに惹かれるのかはっきりわからないのに作品の中に引き込まれていくような感覚。そんな作品と出会えることも、アートとふれあう醍醐味のひとつです。

 それに、アートは美術館で鑑賞するだけのものではありません。

 お気に入りの作品を部屋に飾って、毎日の暮らしの中で気軽に楽しむ。それがアートの本来の楽しみ方ではないでしょうか。


アートを飾る楽しみ

小さな絵を飾るだけで部屋の雰囲気が変わる

 海外では、壁一面にさまざまな絵を飾っている部屋をよく見かけます。日本ではなかなか見られない光景ですね。だからといって日本人がアートに関心が無いのかといえば、決してそうではないはず。むしろ、美術館の入場者数は世界的にみても多いのですから。

 どうやら「アートは鑑賞するもの」というイメージが強いのか、「アートを買って飾る」という行動にはあまりつながっていないようです。

 アートには、たとえ小さな作品でもその場の雰囲気を変える不思議な力があります。 白い壁に囲まれた部屋に一枚の絵を飾るだけで部屋全体が暖かく感じられたり、絵を掛け替えると涼やかな風が吹いてくるような気がしてくるのです。

 アートを飾る場所をどんな空気で包みたいかを考えながら、作品を選ぶのはとても楽しいものです。 ぜひアートを手に取ってみてください。美術館にあるような有名な作品を飾ることはできなくても、手軽に楽しめる作品は数多くあります。


絵はもうひとつの窓。風景・季節を楽しむ

 絵は「もうひとつの窓」とも言われます。額の中には、今いる空間とは別の世界が広がります。どんな世界を手にするかはあなたの自由。ちょっと一息入れたいときには絵の世界に飛び込んでリフレッシュできるのです。

 季節にあわせて「世界」を変えられるのも楽しみの一つ。季節と言っても風景画である必要はありません。抽象的な絵やオブジェでも、季節を感じさせるような色合いや質感があるはずです。

 日本は「家にアートを飾る」という文化にあまりなじみがないように思われがちですが、実は古くから部屋に絵を飾る風習がありました。それが「掛軸」です。江戸時代には桃の節句、端午の節句などの「五節句」に合わせて床の間の掛軸を季節に合ったものに掛け替えるという風習が広がり、武士だけでなく庶民も絵で季節を楽しんでいたのです。

 今では和室に床の間のある家が少なくなってしまい、掛軸もあまり見られなくなりましたが、「季節に合った絵を掛け替えて楽しむ」という日本の伝統は大切にしていきたいものです。


アーティストの成長を見守り、応援する楽しみ

お気に入りのアーティストを見つける

 アートを観るだけなら気楽だけど、購入するとなると「あの部屋には大きすぎるのではないか」とか、「せっかく買うのだから、将来性のある作家を」などと、あれこれ考えすぎて選べなくなってしまうともよく耳にします。

 そんなときは、色々な情報は一度忘れて、まず作品だけを見直してみましょう。 人の意見ではなく、まず自分自身で「いい」と思える作品を探してみてください。素直に「いいな」と思えたら、それはあなたの感性とその作品を創り出したアーティストの感性が、どこかでシンクロしたしるしです。

 色々なアートの中から、あなたの「お気に入り」のアーティストをぜひ見つけてみてください。


アーティストや作品の背景を知る

 お気に入りのアーティストと出会うことができたら、そのアーティストのことを調べると作品をより深く味わえます。アーティストの他の作品、人となり、どんな活動をしているのかなど、アーティスト自身のSNSでの発信や、個展などの告知もブログで知ることができるでしょう。

 アーティストも日々進化しています。そのアーティストが創り出してきた作品の変遷を見ることができれば、自分が手にした作品がどんな経過をたどってその表現になったのか、作家が何を表現しようとしたのか、どんな思いで創作したのかを想像することができます。

 そうすると初めて見た時とは作品の見え方が変わり、その作品の違った良さも見えてきます。そして、アーティストがこれからどこへ向かっていくのか、思いを馳せるのもまた楽しいのではないでしょうか。


作品を購入して応援し、アーティストの成長を楽しむ

 作品を購入するということは、さまざまな意味を持っています。「純粋にその作品が好きだから」という人もいるでしょう。また、「将来の資産価値を期待して投機目的で」という人もいるかもしれません。

 しかし忘れてはならないもう一つの大切な意味があります。作品を購入するということは、アーティストの応援につながるのです。もちろん金銭的な面でも支援することになりますが、そればかりではありません。

 アーティストは自分の思いを作品に込めて創作します。個展やSNSでの作品の発表は、自分の思いが誰かに伝わったかを確かめる場でもあります。多くのアーティストは自分の作品がどう受け止められているか、どの作品がより人々の心に響いたのかを常にアンテナをはり、受け止めようとしています。

 アートを購入するという行為は、「この作品は私の心を掴みました」という作家へのメッセージ。作家はあなたのメッセージを受け止め、今後の創作活動へフィードバックしていきます。  つまり、作品の購入は、金銭的な面のみならずアーティストの成長を促すことになるのです。

 そうしたやりとりの中でお気に入りのアーティストが成長していく様を見守っていくことは、アート作品購入のいちばんの楽しみともいえるでしょう。

 最初は無名だった、あなたの「推し」のアーティストが、やがて個展を開くようになり、雑誌に取り上げられ、美術館に作品が並ぶ日がくるかもしれません。

 自分もそのアーティストの成長に一役買ったという満足感は、何ものにも替えがたいものとなるでしょう。


生活にアートを

 アートを観て心が穏やかになったり、元気になったりすることがきっとあると思います。 でも見るだけではもったいないんです。最初は純粋にその作品が「好き」というだけでいい。 ぜひアートを手にしてアーティストのメッセージを受け止めてみましょう。

 アートを手にすることは、目に見えない作家へのメッセージ。作家はそれを受け止めて、新たな創作へとつなげていく。アートを手にするということは、アーティストとの対話なのです。

 もっと気軽に、あなたの生活にアートを取り入れて、アーティストとの創作活動にあなたも参加してみませんか。


 

ライター
ぴよまるこ

美術関係の仕事をしながら、アートライターとして毎日アートに囲まれた生活をしています。仕事柄、洋画、日本画、現代アート、掛軸、陶芸と幅広く触れる機会があり、毎日が発見の連続。アートの楽しさを少しでもお伝えできればと思います。